【利き酒】明智光秀も手配した?奈良・正暦寺の菩提酛で作られた「つげのひむろ」を飲んでみた

 

こんばんは。

この記事をご覧くださいまして、誠にありがとうございます。
さて、今回は、奈良・倉本酒造さんのお酒「つげのひむろ 菩提酛 純米酒」をご紹介したいと思います。

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Contents

○『諸白』と『菩提酛』

『麒麟が来る』終わりましたね
番組が終わる一週間前に書いた前々回の記事で、本能寺の変の理由で「義憤説」を採るのではと書きましたが、予想は外れ、「絶望説」とでもいうような理由で描かれたようですね。
そして、変の後の山崎の合戦は描かれず、光秀が生存していることを暗示して物語を終わらせる。

この辺、賛否両論あるようですが、ドラマのタイトルが「明智光秀」みたいに光秀一代記的なものであればどうかな、という気もしますが、光秀・信長の、ある意味、友情を描いたドラマと考えると、もっともな終わり方だったのかなと思われます。

さて、その最終回、本能寺の変の前の回で、徳川家康を安土城に招いて接待する場面がありました。
その接待の席で光秀は信長からせっかんを受け、それが光秀の心の中に陰を造りだし、本能寺の変につながっていくという筋立てになっていたようですが、その宴席ではもちろん、お酒も出されていました。

前々回の記事でも書きましたが、そのお酒がどこのお酒だったのか、同時代史料によって判明しています。
それは、大和国、現在の奈良県奈良市にある正暦寺というお寺で作られていた「諸白」です。

奈良・興福寺(阿修羅像で有名なお寺です。)の塔頭(たっちゅう。大きなお寺の中に建てられた小さなお寺のようなもの)であった多聞院では、『多聞院日記』という日記が1478年から1618年にかけて書き継がれていたのですが、その日記の中で、1582年5月12日に安土城から「山樽三荷諸白上々、一荷に酒三斗ずつ」献上せよとの命令があったことが記されているそうです。
ここで言われている『諸白』は、奈良市の南東部にある正暦寺で作られていたお酒のことで、現在の日本酒の原型となったお酒です。

『諸白』というのは、お酒を造る時に使う掛米・麹米の両方(『諸』。「諸刃の剣」というときの「諸」です)に精白した米を使って造ったお酒のことです。
お米を精白するというのは、現在ではそれ用の機械があるためそれほど難しいものではありませんが、当時は結構大変な作業であったため、掛米にのみ白米を使っていたそうです。

この正暦寺の諸白にはそれ以外にも、
・仕込み(醪を作ること)を3回に分けて行う「三段仕込み」の導入
・現在の速醸酛(雑菌の繁殖を防ぎ、米をアルコールに変えるまでの時間を短縮する乳酸菌)の原型となった『菩提酛』の使用
・お酒の腐敗を防ぐために出来上がったお酒の温度を70℃くらいまで上げて殺菌する「火入れ」の実施
をしており、これらは現在の酒造りでも行われている技術です。
こうした酒造りの技術がこのお寺から始まったことから、正暦寺の境内には「日本清酒発祥の地」の碑が立っていたりします。

で、気になる、このお酒がどんなお酒だったのかですが、残念ながら、正暦寺はその後、火災などが相次ぎ、17世紀ごろには酒造りを止めてしまったため、現在には伝わっていません。
ただ、前回ご紹介した『天野酒』のように、復刻を目指す動きがあって、奈良県の酒蔵15社と正暦寺、奈良県工業技術センターなどが1996年7月に「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」を発足させて『菩提酛』の復活を目指しました。

『酛』というのは『酒母』ともよばれるもので、お米をアルコールに変える酵母菌を育てるために、(蒸した)米、水、麹などを桶に入れて造られる、どろっとした半固形物のことです。

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※イメージです。

酛を造るには『麹』が必要で、酒造りでは「一麹、二酛、三造り」とよばれるほど工事は大切なものなのですが、この『麹』というのは、言ってしまえば『カビ』のことで、麹菌は蔵元ごとに独自のものが住み着いているそうです。

地酒というのは、本来的には、このそれぞれの蔵元に住み着いている麹菌を使って造られるために、蔵元ごとに独特な味が生じるものなのです。
そのためもあって、このプロジェクトでも正暦寺で『菩提酛』を造ることになったのですが、日本ではお酒を勝手に作ることはできず、この『酛』を造るのにも国税庁の「酒造業」の免許が必要だったりします。
この『菩提酛』を造るため、正暦寺は1998年に「酒母製造業免許」の交付を受けたそうです。

そして、1999年から、正暦寺の敷地内で『菩提酛』の製造が開始されて蔵元に分配され、現在では以下のお酒が「菩提酛」を使用して造られているそうです。

三諸杉 菩提酛 純米(今西酒造、奈良県桜井市)
嬉長 菩提もと 純米(上田酒造、奈良県生駒市)
・八咫烏 菩提酛純米 浩然の気(北岡本店、奈良県吉野郡)
百楽門 菩提酛仕込 純米(葛城酒造、奈良県御所市)
つげのひむろ 菩提もと純米酒(倉本酒造、奈良県奈良市)
菊司 菩提もと純米酒(菊司醸造、奈良県生駒市)
・純米酒 菩提もと升平(八木酒造、奈良県奈良市)
・鷹長 純米 菩提酛(油長酒造、奈良県御所市)

今回ご紹介するのはこの内の、「つげのひむろ 菩提もと純米酒」になります。

 

さて、なぜいくつかある『菩提酛』を使ったお酒の中から「つげのひむろ 菩提もと純米酒」を選んだのかというと、、、単純に、正暦寺と同じ奈良市にある酒蔵だから、水なども含めて、昔のお酒に一番近いものになるのではないかな、と思ったからです^^;

実際、このお酒の蔵元である倉本酒造さんのWebサイトを見ると次のように書かれています。

菩提酛造りとは、室町時代(1400年代)に奈良・菩提山正暦寺で創醸された方法。水に生米を浸漬し乳酸菌発酵させたそやし水(酸っぱい水)を仕込みに使用するのが特徴。その製法を500年ぶりに復活させ、正暦寺にて寺領の米と水・正暦寺酵母・正暦寺乳酸菌を用いて酛を造り、近代醸造法と融合させた甘味と酸味のある濃醇旨口の純米酒。

『近代醸造法と融合させた』とあるので、昔のお酒を完全に再現したわけではないと思われますが、それにかなり近いのではないかなと思い、このお酒にしてみました。

 

○「つげのひむろ 菩提もと純米酒」

こちらが、「つげのひむろ 菩提もと純米酒」です。

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まずは、見た目。
ほんのり黄色がかったお酒です。
見た目は他の普通の日本酒とそれほど変わりません。

次に香り。
甘い感じでもなく、以下にもアルコールという感じでもない、米のお酒、という感じの香りです。
一般的な純米酒の香りと変わるところはありません。

そして味。
飲んでみると。。。

まずは旨みがグッときます。
そして、その後からアルコール感がすっと舌の上を通り抜けます。

その「旨み」はちょっと不思議な感じで、甘い、ビックルとかカルピス的な乳酸菌飲料で感じられる、一瞬、牛乳を連想させるような甘みです。
「生酛造り」といわれるお酒と同じ方向性の味です。
そして、わずかではありますが、炭酸飲料を飲んだ時のような刺激が舌に感じられました。

甘口・辛口で言えば「甘口」の味ですが、舌に残るような甘みではなく、アルコールのおかげで締まった甘みになっています。
キレも悪くなく、少しの余韻を残して速やかに後味は消えていきます。

けっこう、特徴的・個性的な味のお酒のように感じました。

 

○料理との相性は?

続いて料理と合わせてみます。

先にも書きましたが、正暦寺の諸白は徳川家康を接待する宴席でふるまわれたと考えられるお酒。
そして、前々回の記事でご紹介しましたが、その宴席で出された料理は、こちらの「安土城天主 信長の館」のWebサイトで公開されています。

せっかくなので、そちらのWebサイトで紹介されているもので、管理人でも用意できる料理と「つげのひむろ 菩提もと純米酒」を合わせてみました。

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管理人が用意できたのは以下のものです。
・からすみ
・かまぼこ(ちくわ)
・やきとり

からすみ、かまぼこ(ちくわ)は、前回の記事でごしょうかいした「天野酒」に合わせたのと同じものです。
「からすみ」は、日本三大珍味として知られている、私たちも知っている、ボラの卵を塩漬けして乾燥させた、あの「からすみ」のこと。

「かまぼこ」は、(ちくわ)とつけているように、現在の私たちが「ちくわ」と呼んでいるもの。
江戸時代以前の「かまぼこ」は白身魚の練り物を串に付けて焼いたものでした。
江戸時代に入ると、私たちが「かまぼこ」として認識している「板かまぼこ」が作られるようになり、串に付けて焼いたかまぼこは見た目が竹を輪切りにしたものに似ていたことから「竹輪(ちくわ)」と呼ばれるようになって、現在に至っているそうです。

「やきとり」については、今も昔も鶏肉を焼いたものではありますが、鳥の種類が異なります。
まず、現在私たちが「やきとり」というと鶏を串に刺して焼いたものを連想しますが、これは戦後になって普及したもの。

以前書いたこちらの記事でもご紹介していますが、それまでは焼鳥というと雀が使われていたものを、浅草の「鮒忠」さんが鶏を使ったところ大繁盛し、その後は鶏のやきとりが普及していったと言われています。

光秀や信長が活躍していた安土桃山時代、「安土城天主 信長の館」のWebサイトによれば、鳥といえば「雉(キジ)」だったそうです。

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以前書いた記事でも述べましたが、現在でも「きじ焼き」という料理があって、これは、
「焼きものの一つで、とり肉や、かつお、ぶり、さばなどの魚の切り身などの材料を、しょうゆ、みりん、酒で作った漬け汁に漬けて焼いたもののこと。
室町時代から江戸時代まで、きじは鳥類の中では美味とされ、そのきじの肉を味わってみたいというところから生まれた擬似料理が始まりといわれる。材料は、一般では魚、精進料理では豆腐が使われた。」
だそうです。

安土桃山時代は、キジの他にも、鶴やひばりも食べられていたそうです。
もっとも、現在は、野鳥の捕獲は禁止されていて、キジは狩猟で捕ることはできるものの、鶴やひばりは許可がない限り狩猟ができないので食べられませんが。
なので、今回は、セブンで買ってきた鶏を使った焼き鳥を使います^^;

この辺の安土桃山時代の食に関するお話に興味のある方は、『信長のシェフ』を読むとよろしいかと思います。
そうした知識がマンガとして描かれているのでわかりやすいです。

からすみ

それではまずは、からすみと合わせてみます。

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こちらは、前回の記事では食べきらなかった、近所のスーパーで5切れ990円で売られていたものです(こちらでも買えます。)。
お味の方は、普通のからすみで、ねっとり感があり、魚卵のこくがほどよく感じられます。

「つげのひむろ 菩提もと純米酒」と合わせてみると、、、
お酒の味の方が強く、からすみの味は奥へと引っ込んでしまいます。
ただ、からすみの味が台無しになるとかそういうことでもないので、まあ、不可ではない組合せ、といえるでしょうか。

○ちくわ

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こちらも前回と同じく、近所のスーパーで売っていた日本の魚100%で作った「ちくわ」に割り箸を通したものです。
今回は、グリルで少し焦げ目がつく程度に炙っています。
前回は魚の甘みが結構強かったですが、今回は炙ったことで甘みが抑えられてほどよい感じになっていました。

さて、お酒と合わせてみると、、、
お酒の味の方が勝るようで、からすみの時と同じように、ちくわの味が引っ込む感じがしました。
そして、これもからすみと同じように、組み合わせとしては、竹輪の味を壊すわけではないので、不可ではない組合せ、といえると思います。

○やきとり

最後にやきとり

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味はご想像の通りです^^
まあ、普通にやきとり、唸るほどではありませんが、普通においしいです。

「つげのひむろ」との組み合わせはというと、、、
タレがあまりついていない正肉とだと、お酒の味が勝って、からすみや竹輪と同じ感じになります。

一方のタレが付いているつくねと合わせてみると、タレの味がお酒の味と釣り合って調和します。
これは、相性いいかもしれません。

 

まとめると、「つげのひむろ 菩提もと純米酒」は、生酛造りのお酒のようなコクのある旨みが特徴のお酒で、個性的な味をしています。
料理と合わせると、からすみやちくわ、鶏の正肉に対してはお酒の味が強く、料理の味が奥に引っ込むように感じられましたが、それらに比べると味の強いタレのついたつくねとは味が調和してよい相性でした。
なので、総括すると、個性的で旨みが強めのお酒なので、料理というよりはその味付けの度合いによって、味の濃いものと合わせると調和するけど、薄味の料理だと料理の味の方が負けてしまうようです。

○終わりに

徳川家康の接待の責にも供された、『菩提酛』を使って造られたお酒「つげのひむろ 菩提もと純米酒」をご紹介してきました。
料理と合わせて飲むのにもよいですし、個性的な味わいがあるお酒なので、お酒だけを楽しむのにも向いていると思います。

『麒麟が来る』は終了しましたが、機会があれば、ぜひこのお酒を、家康の接待から本能寺の変に至るまでに想いを馳せながら飲んでみるのも良いのかなと思います。
機会がありましたら、ぜひ、試してみてください。

それでは、今回はこの辺りで。

【参考文献】
横田 弘幸 著「ほろ酔いばなし 酒の日本文化史」 敬文舎 2019年

 

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